農政 ニュース詳細

2015.12.10 
日本農業の将来どう描く 地域社会への打撃も懸念 TPP合意で討論一覧へ

農協研究会
・非撤廃率19%を強調
・輸出拡大で価格安定も
・米国の長期戦略
・国会審議が重要
・経営安定をどう図る
・農業のあり方も問う

 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は11月28日、東京都内で第23回研究会「TPP合意に対する不安と不信を問う」を開いた。TPP合意内容は重要5品目でも3割が関税撤廃されるなど、農林水産物全体で81%の品目が関税撤廃されることになり、国内農林水産業に大きな影響を及ぼすことは必至で農業者は強い不安と国会決議にも反しているのではないかとの不信を募らせている。こうしたなか研究会では自民、民主の農林幹部議員を招いて議論した。

◆非撤廃率19%を強調

「TPP合意に対する不安と不信を問う」研究会 梶井会長は「あのTPP合意で一体、聖域は守られたのかという不信とこれからどうなるのかという不安をみな持っていると思う。率直に問題点を指摘してもらいたい」と参加者に呼びかけた。
 自民党からは農林水産戦略調査会会長代理の宮腰光寛衆議院議員が「TPP合意と国内対策について」と題して説明した。
 宮腰氏は交渉参加までの経過を振り返り「国会決議は交渉の強い後ろ盾として、どうしても必要だという気持ちでまとめた。日本政府の交渉方針となったことは間違いなく今回の結果にはわれわれにも責任があると考えている」と切り出した。
 そのうえで合意内容については「農林水産業の関税の非撤廃割合は米国1.2%、カナダ5.9%。日本は19%も残すことができた。長期削減でもセーフガードを措置した。重要品目のコアな部分では関税撤廃はない」と強調した。
 重要5品目のうち、たとえば米では発効後13年目以降に米国と豪州に対して合わせて7万8400tの輸入枠を設定するが、これは義務輸入ではないことや、政府は備蓄米の運営見直しによって国産米への影響を遮断する対策を導入することを指摘した。
 牛肉は発効後16年目に最終税率9%として関税撤廃を回避。輸入急増にはセーフガード措置を実施する。
 宮腰氏は今年1月の日豪EPA発効による日本への影響分析を紹介した。それによると7月までの実績では豪州産牛肉の輸入量は過去3年平均より2.6%増えたものの、牛肉輸入量全体は同2.1%減少したという。輸入価格は豪州産、輸入品全体ともに同45%程度上昇、国産牛肉(乳用・和牛去勢、乳用メス)の卸売価格も同30~64%上昇している。こうしたことから特段の影響はないと政府は説明している。


◆輸出拡大で価格安定も

 宮腰氏は、輸出によって豪州国内の価格も上昇しているとして「豪州産が入ってきた当初は安売りセールもみられたが今はセールをやろうとしているところはまったく聞いたことがない」と強調し、日本でもホタテが輸出増によって国内価格が上昇していることなどから「輸出が安定すれば国内需給も価格も確実に安定する。人口が確実に減って市場が小さくなっていくなか国内生産と価格の安定をめざすには、やはり輸出にしっかり力を入れていくこと」などと述べた。
 TPP対策については牛・豚のマルキンの補てん割合を8割から9割に引き上げるとともに、「法律に裏づけられた安定的な仕組みにする必要がある」と早期の関連法案の国会提出を図っていきたいとの考えを示した。
 とくに豚肉についてはアジアの輸入量がこの10年で約2倍の282万tに急増し、うち中国が35万tから81万tに伸びたことを指摘。この間のわが国の輸入量は80万tで横ばい。今後の予測では2024年にアジアの豚肉輸入量は392万tに伸び、うち中国が119万tを占める見通しだ。いつまでも日本が思うままに豚肉を輸入できる状況ではない。「そのときに養豚農家がいなければ大変なことになる。しっかり養豚農家を支えていくことが重要」と宮腰氏は強調した。
 安倍政権以降、最近の為替相場にも触れ、1ドル120円水準について「これが適正水準。飼料は高くなっているが、一方で国産農産物に影響を与えるものも高く輸入されている。(80円から120円への円安進行で)50%違う。この状況のなかしっかり対策を講じることで日本農業を支えていくことは十分できると思う」と話し、そのために経営安定対策の枠組みをしっかり作り体質強化策を講じ「結果として経営安定対策の世話にならずともそれぞれの経営が十分やっていけるような姿にしていくのが、われわれの農政新時代がめざすところ」などと話した。またTPPに対してなお多い誤解を丁寧に解いていく必要性も指摘した。


◆米国の長期戦略

表1:医療費・薬品支出の国際比較(表1:医療費・薬品支出の国際比較)

 民主党は経済連携調査会筆頭副会長の篠原孝衆議院議員が出席し、「TPP合意は日本のかたちを壊す」と題して話した。
 TPPは米国の制度を他国に押しつける長期的な戦略のもとにあるもので、金融や製薬企業など今の米国の有望な産業の利益追求にあることなど「思いつきではなく長期的な戦略に基づいている」と指摘した。
 とくに1990年代以降は、経済力をつけた日本に対して、米国は日本の制度を変えることに狙いを定める方針に変更。非関税障壁の撤廃に向けた日米構造協議に始まり、毎年の年次改革要望書で郵政民営化、農協改革、労働者保護法の改正などを迫ってきた。しかし日本はむしろ国内改革としてこれらに先走って取り組んできたと篠原氏は指摘した。
 そのなかには日米同盟の強化という名目もあったが、「TPPは明らかに同盟国ではなく日本を収奪の対象と考えている」と強調した
 政府は国民皆保険制度はTPPによって何ら変更されないと説明している。ただし、米国の製薬企業等の輸出戦略によって保険制度も影響を受けかねないことを篠原氏は指摘した。米国から日本への輸出品目のうち、医薬品と医療機器を合わせると穀物や航空機を抜いて1位となり「日本は大お客様」だという。しかも保健支出に占める医薬品支出が日本は米国やドイツよりも多く、米国からの医薬品の輸出増や外資企業の進出は、長期的には米国医薬品企業への支払い増加というかたちで日本の財政と国民負担を増やすことになりかねない構造にあることを指摘した(表1)。
 ただ、米国では今回合意した医薬品のデータ保護期間については製薬企業から不満もあり再交渉の必要性を示唆する議員もいる。米国製薬企業は世界大手上位10位に5社が入っており、最大の政治献金団体で影響力は大きい。また、次期大統領候補の10人は今回のTPP合意に反対していることなども指摘した。


◆国会審議が重要

表2:六ヶ国の畜産業の平均飼養規模比較(表2:六ヶ国の畜産業の平均飼養規模比較)

表3:日本の畜産業の平均飼養規模拡大の推移(表3:日本の畜産業の平均飼養規模拡大の推移)

 篠原氏は米国では条約の批准は党議拘束をかけず議員個人で賛否を判断するとして日本もこれを見習うべきことを強調した。米国は大統領制で議会の性格が違うという反論があるが日本と同じ議院内閣制の英国でも外交案件は党議拘束をはずすことも指摘した。
 また、日本の政治の問題として閣僚の半数が東京生まれで日本は「政治システムとしても田舎を忘れている」問題も挙げた。
 それは日本農業と農業政策についての理解にも関わる。篠原氏は「日本の農家は努力していない、だからTPPで競争にさらすべきだとマスコミはいうが日本の農業は努力している」として、養豚や肥育牛ではすでに欧米並みかそれ以上の大規模経営を実現していることなどを指摘した(表2、表3)。
 一方、農業保護は他国にくらべて非常に低い。農業予算の生産性(予算と農業生産額の比)は米国の1.81に対して日本は2.49と生産性は高い。しかし、一戸あたりの農業予算額はドイツが4万8000ドル、米国が3万8000ドルに対して日本は9200ドルに過ぎない(表4)。

表4:主要国の農業保護比較(表4:主要国の農業保護比較)

 こうした例を挙げながら「安倍総理はレッテル貼りはやめてくれ、とよく言う。まさにそのとおり。農業は保護されている、は間違いだ」と強調した。
 篠原氏が強調したのは農業分野への打撃だけでなく、TPPが発効すれば日本の地域社会は崩壊、日本的なものが消失すること。「当然のごとく、もうTPP協定は決まったという雰囲気があるが、私はそうは思わない」と強調し今後の国会審議の重要性を強調した。


◆経営安定をどう図る

 講演後の議論で参加者からは、関税自主権を失い米国のルールを押しつけられたのではないかとの指摘もあった。宮腰氏は「今回は国際ルールをつくる交渉だった。各論の交渉のなかでしっかりルールを決めていくことはけっして関税自主権を失ったことにならない」と反論した。
 また、TPPの影響について政府が影響は限定的であり長期的には価格が下落するものもあるなどとしていることについて参加者から「まったく不十分ではないか。中国、韓国、タイ、フィリピンなどがTPPに関心を示していることから少なくとも農業への影響については12か国という枠組みだけで評価し対策の議論をしていいのか」との意見や「情報公開と国民的議論も国会決議事項だったはずだ」との指摘があった。
 宮腰氏は新規加盟には12か国の同意が必要であることや、加盟を望む国がルールも含めて協定内容に合意する必要があるとした。また、加盟を認めるかどうかは各国との具体的な交渉次第だとして「農産品で影響が出そうということになれば交渉で影響がないようにしていく。少なくとも中国に対してはコメを外枠で輸入するようなことはない。重要5品目に関して中国がTPPに参加した場合も影響がないようにする」などと述べた。ただ、国民に対する情報提供については保秘義務があったことから「難しかった」と話した。
 経営安定対策の要は米価ではないかと意見もあった。「少なくとも60kg1万4000円レベルに引き上げないと法人経営もブラック企業にならざるを得ないというのが現場の声だ」と参加者は指摘。
 宮腰氏は「米の問題はTPP以前の問題」として、過剰作付けにより26年産は下落したが、27年産ではそれを解消し米価が回復基調にあることをふまえ「来年はもっとアクセルを踏んで飼料用米や麦、大豆もふくめしっかり主食用米の生産調整をやっていただく。今の米価水準が適正とは思っていない。国内のバランスをとらない限り米価は下がる。来年はさらにアクセルを踏み込んですべての県で過剰作付けをなくすというぐらいの気持ちでがんばっていかなければならないと思っている」と述べたほか、30年産からは国が都道府県に生産数量目標の配分はしないものの、自主的に作付け判断する環境を整えるなど「生産調整の廃止とは言ったことはない」と強調した


◆農業のあり方も問う

 TPP対策では政府・与党は輸出拡大の重要性を説く。これに対して篠原氏は「基本的に食料については地産地消、旬産旬消が本来の姿。遠くに運ぶエネルギーコストは膨大。余ったものを輸出するならいいが、農産物の輸出を国が音頭をとってやることではない」と批判した。同時にこの問題は輸入品にも有機を求める消費者側にもあるとして「どれだけ空気を汚して運んでくるのか。その時点でもう有機農産物ではないと思う。人間の体の安全だけ考える、自分たちだけ良い物もの食べたいと考えるのは不謹慎」と断じた。
 そのほか政府は問題がないと説明している食の安全・安心での「基準緩和」やISD条項による訴訟など今後、懸念が残る問題を指摘する議論もあった。

(写真)「TPP合意に対する不安と不信を問う」研究会
(表)研究会当日の篠原議員の資料より

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