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特集:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

2018.09.05 
【JA全中・中家徹会長に聞く】食料安全保障の確立を国政の基軸に一覧へ

・「自己改革」発信し 現場から国民議論を

 本紙シリーズ企画「自給率38% どうするのか?この国かたち」は今回、就任から1年を迎えたJA全中の中家徹会長にインタビュー。来年から食料・農業・農村基本計画の議論が始まることをふまえて食料安保を国の政策の基本とすべきことや、地域政策の充実による地方の活性化なども重要だと強調した。またJA自己改革の取り組みを通じて、地域からのJAへの評価を高め国民への食料安定供給の役割を果たしていくことがJAグループの課題であることなども呼びかけた。聞き手は文芸アナリストの大金義昭氏。

◆危機はチャンスでもある

 大金 8月で会長ご就任から1年となりました。諸課題が山積する激動期の会長として、まずはこの1年の感想をお聞かせください。

 

中家徹JA全中会長 中家 まさに火中の栗を拾いに行くのかとも言われましたが、しかし、本当に大変な時ではあるが、今がある意味ではチャンスではないかという思いもありました。
 とくに注力してきた自己改革は、本来の協同組合としてわれわれがこれまでできていなかったことへの反省の上に立たなければならないと思います。今、全国のJAで一生懸命に「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、そして「地域の活性化」を目標とした自己改革に取り組んでおり、そのことを組合員との対話運動を通じて伝えようとしています。
 これにより、JAに対する高い評価をいただければ、組合員の結集力が高まり、協同組合の原点に立ったJAとして、新たな出発をすることができる大きな取り組みだと思います。

 

 大金 「ピンチはビッグチャンス」と捉える、と。

 

 中家 そうです。大変だけれどもどんどん汗をかこう、と。組合員を訪問し対話をしてJAのやっていることを分かってもらって、やはりJAはなくてはならない組織であり、われわれ組合員の組織なんだという意識が高まれば、協同組合の原点に帰ることができます。
 協同組合の最大の強みは組織基盤にあるはずですが、それが弱くなってきたことは事実です。今回はその組織基盤を強くするひとつのチャンスだという思いで取り組む必要があると思います。

 

 大金 JAの役職員の皆さんがそれぞれの現場で危機感を深め、いかに危機をチャンスにするかという認識が全体に広まったと思います。

 

◆農業の現状 国民で共有

 大金 今日お会いするにあたって、会長も私も共に尊敬する宮脇朝男さんのことを話題にしたいと思いました。宮脇さんは昭和42年(1967)から50年(1975)まで全中会長を務めたわけですが、その時代と今がどう違うのかを調べてみると、昭和45年の農業就業人口は1000万人で現在は180万人です。65歳以上の農業者は当時、18%でしたが、現在は180万人中120万人と67%にもなっています。農協数が当時は6000、現在は650、食料自給率が当時は60%、現在は38%です。
 中家会長が中央協同組合学園に第1期生として入学されたのは昭和44年。それから50年、日本農業は壊滅的な状況にあります。これを何としても挽回していかなければなりませんが、宮脇さんは食料自給率が60%の当時も米国訪問のときに「日本農業が壊滅する方向で自由化することはぜったいに認められない」と米国政府に言っています。

 

 中家 あのころは社会に対し、農業そのものの力もあったし農協の力もありました。3年に1回の農協大会は全国紙の1面に載りました。だから米価闘争で運動をしても、大きな影響力があり世論もそれを認めていました。 しかし、今の時代はそうではありません。農政運動は、国民の理解を得るような別のやり方をしなければなりません。
 これからは、消費者の方々にも農業・農村のことを理解していただき、国民的な課題として訴え、議論を起こしていく必要があります。昨年末、地元のテレビ局から2018年に選ぶ漢字一字は何かと聞かれたので、私は「食」と書きました。食べるということは国民全体の問題であって、改めて農業の実態を分かってもらう必要があるからと考えたからです。また、昨今は世界的に異常気象が多発するなど、食料生産のリスクはものすごく大きくなっています。
 少し災害があると野菜が暴騰するわけですが、同時に野菜が不足したときは外国から輸入し、これが既成の商流・物流になってしまって、国内生産が回復してもまだそのルートが残っているなど、国内農業生産自体が縮小していくイメージがあります。農業生産額が増えているといいますが、全体の単価高によって増えているのであって、農産物の生産能力は弱くなっており、自給力の低下も懸念されます。

 

 大金 食料の安定供給に大きな役割を発揮するのはやはりJAグループだと思います。食料安全保障、あるいは食料主権という大きなテーマについてはどのような考えをお持ちですか。スイスや韓国などでも、新しい動きが見られますね。

 

◆農業は農村と不即不離
 
 中家 来年には食料・農業・農村基本計画の見直しの議論が予定されていますから、全中としても政策提案をしていくつもりです。とくに食料安全保障の確立を基本計画のなかに書き込むべきだと考えています。国自体がそういう方向で進めていかなければならないと思います。
 それから農業はもちろんですが、農村をどうするかも大事です。地域政策そのものが弱いのではないかという思いがあります。農村育ちとして実感するのは、農業・農村は食料供給だけではなくて、いろいろな多面的機能を発揮しているということです。これがだんだん弱くなってきた。7月の豪雨災害ではため池のが決壊がありました。私の地元も何人かでため池を管理していますが、高齢化などで農業をやめた人はため池の管理からもはずれ、ますます維持が難しくなっています。防災という面からももう一度、農業の多面的機能を見直し、農村をどうするのかという点を重視しなければならないと思っています。
 産業政策と地域政策は車の両輪だと思います。農業の成長産業化は必要で農業を強くしなければいけないことは分かります。しかし、今はどちらかといえば産業政策のウェートが高い。大規模化、法人化、あるいはスマート農業の推進といわれますが、現実は家族農業が中心であって、その人たちが農村コミュニティを守っている。そこに視点を当てていかないと政策が少し歪になりはしないかと懸念しています。

 

文芸アナリストの大金義昭氏 大金 農業はそのバックグラウンドにしっかりした地域がなければ成り立ちません。国連は来年からの10年を家族農業の10年とするようですが、そんな動きとも連動させながら、食料安全保障の問題をこれからJAグループとしてはどんなかたちで発信していきますか。今取り組んでいる自己改革や次回JA全国大会の議案の策定もそこにつなげていくべき取り組みだと思いますが。

 

 中家 まずは国の政治のなかで食料安全保障の確立をきちんと位置づけてもらうということです。 もうひとつは、「食」というのは人間共通の課題ですから、特に4月に立ち上げた日本協同組合連携機構など、いろいろな関係団体と意見交換や連携したなかで国民的な議論を盛り上げていくことも必要だと思っています。

 

 大金 協同組合の連携は国民全体を動かしていくための重要な手がかりになりますね。

 

 中家 そうですね。それから、先ほども言いましたが農業の実際を知っていただくということが大事です。野菜が暴騰したときも、野菜が高くなったということだけで終わってしまいます。なぜそうなったのかを考えてもらうよう問題を投げかけていく必要があります。 それからわれわれが取り組んでいる自己改革自体もまだまだ外向きに発信できていませんから、JAが果たしている役割も十分に理解されていません。厳しい経営のなかでも地域のSSを維持していること、地域医療を守っていること、また、買い物弱者のための移動購買車を走らせていることいった、地域のライフラインを守っていることなどです。

 

 大金 農業と地域社会とは表裏一体であり、JAグループはそこを見据えて活動していると思います。これについて正当に評価してもらうための広報活動がもっと重要になりますね。

 

◆JA役職員が地域に発信

 中家 JAグループの全役職員が広報担当だというぐらいの姿勢で正しく認識してもらう活動が本当に大事だと思います。

 

 大金 会長はふだんの事業・活動を通じて地域住民の皆さんにファンになってもらうようなホスピタリティが必要だということも強調していますね。

 

 中家 結局、世論にどう理解いただくかがポイントになると思います。たとえば、TPP反対運動が、一般の方からどう映ったか。大義があっても、それをしっかりと伝えないと、世論の理解は得られません。
 ですからもう一度、JAグループの組織ブランドをきちんと確立するためにも、自己改革でさまざまな取り組みをしていることを地域に正しく発信していく必要があると思います。
 私自身も職員として、農協があって助かった、ありがとう、と言ってもらえたことが協同組合運動者としていちばんの生きがいでした。自己改革の取り組みによって、そういう声がこれまで以上に増えるようにしなければなりません。そこに職員のみなさんも喜びを感じる。
 ホスピタリティが大事だと私はずっと言い続けてきました。JAは人の組織ですが、組合員は職員を見ていて、あの人がいるから利用しようと思った、という話はたくさんあります。これがどこから生まれるのかといえば、まさにホスピタリティだと思います。日々の心構えです。
 組織のブランドはある意味で役職員がつくる。役職員の日々の行動、言動が作るということだと思います。

中家徹JA全中会長(左)と文芸アナリストの大金義昭氏

 大金 JAとの接点を持っている地域住民の皆さんがJAを誇りにしてくれるような関係をどう作り広げていくのか、日常の事業・活動のミッションでもあるわけですね。 中家会長は中央協同組合学園で当時の宮脇会長などから協同組合精神を叩き込まれたと思いますから、この困難な時代の先頭でブレずにこの時代の先頭で旗振りをしていただきたいと期待しています。宮脇さんは「軍旗はためくところに兵あり」と言っていますが、中家会長の旗はどのような旗になりますか。

 

 中家 宮脇さんから教えられたことは、協同組合運動はとにかく現場にあるということでした。ですから、こういう立場にあっても常に現場、そこの実態をいちばん重視した取り組みを進めていこう、ということになると思います。646JAあれば自己改革も646通りあると思います。

 

 大金 今日のテーマである食料安定供給とは、ある意味でJAの社会的責任でもあるとして運動を起こしていくことが必要ですが、それもまさに現場からですね。

 

 中家 5年先、10年先がどうなるのかという将来についても外に発信していく必要があります。とくに消費者に理解してもらうことが大事で、今はそれを議論するチャンスだと思っています。

 

 大金 軍旗がはためくためにもご健康で活躍されることを心からお祈りします。

 

 中家 「農は国の基 農を軽視する国は滅びる」との考えのもと、粉骨砕身、頑張ります。ありがとうございます。

 

【インタビューを終えて】

「食料安保」の問題は、高度に政治的な課題でもある。だから、政治や政権の在り方抜きには本来十分に語れない。この度はしかし、JAがいま喫緊の課題として総力で取り組んでいる「自己改革」の一環あるいはその延長線上で「JAが協同組合としてやるべきこと」に焦点を絞り存念を伺った。「協同組合運動の申し子」ともいってよい会長の肉声がどこまで聞き出せたか。すべては聞き手の責任である。政治的な課題については、改めて伺ってみたいと思った。(大金)

 

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