農政:緊急企画:許すな!日本農業を売り渡す屈辱交渉
トランプの狙いはTAG(日本語)という名のFTA(英語)でTPP以上を実現すること【谷口信和・東京大学名誉教授】2018年10月9日
トランプ大統領のこうした作戦を安倍首相はごはん論法で擁護し、お友達に中間選挙勝利のための差し入れ=FTA締結の手付金を約束したのが、今回の合意の本質である。
安倍首相は交渉合意したのはTAG(物品貿易協定)であって、包括的なFTAではないという。日米共同声明の第3項と第4項の外務省訳は「3 日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定(TAG)について、また他の重要な分野(サービスを含む)で早期に成果を生じ得るものについても、交渉を開始する」「4 日米両国はまた、上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする」である。つまり、(1)物品貿易協定(TAG)の交渉を開始する、(2)サービスを含む他の重要な分野で早期に成果をあげられるものについて交渉を開始する、(3)協定(TAG)の議論の完了後に他の貿易・投資事項についても交渉を行うという三段構えになっている。
◇ ◇
だが、在日米国大使館・領事館の仮翻訳は、「3. 米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」「4. 米国と日本はまた、上記協定の議論が完了した後、貿易及び投資に関する他の項目についても交渉を開始する」としている。つまり、(1)3.には日米物品貿易協定(TAG)といった言葉がないこと、(2)4.でいう上記協定とは3.の「物品、またサービスを含むその他の重要分野における日米貿易協定」全体を指し、TAGを指すものではないことが明らかであろう。
TAGという言葉がアメリカ側に見受けられないのは、Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services の英文では、物品は大文字のGoodsではなく、小文字のgoodsと表現され、協定Agreementはgoodsとother key areas including services の両者に関わる日米貿易協定と翻訳せざるをえなかったからである。
さらに、在日米国大使館の3.の翻訳を外務省によるFTAの定義、「物品の関税及びその他の制限的通商規則やサービス貿易の障壁等の撤廃を内容とするGATT第24条及びGATS(サービス貿易に関する一般協定)第52条にて定義される協定」と照らし合わせると、今回交渉合意したのはTAGではなく、FTAそのものであることが明らかである。
つまり、安倍首相は、物品及びサービスを含む他の重要分野に関する貿易協定=FTAに関して交渉を始めると合意したにもかかわらず、包括的なFTAではなくTAGの交渉に合意したと強弁しているわけである。あいも変わらぬ「ごはん論法」が健在である。
また、安倍首相は5項で、「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」という日本政府の立場をアメリカ政府が尊重するとしたことを、今後のFTAでの物品貿易の合意の上限がTPP水準であることの根拠にしている。だが、TPPはアメリカにとって不利益だといって、これから離脱したのは他ならぬトランプ大統領であった。そのトランプが要求してきたFTA交渉にやっと日本が同意したということは、相互的な貿易の重要性を認めさせ、日本との貿易赤字の削減を交渉で実現しようというトランプの要求を呑んだことに他ならない。つまり、TPPレベルの関税引き下げ・撤廃は出発点に過ぎず、離脱したTPP以上に有利な貿易協定を締結して初めて、トランプの独自の成果になるのが今回のFTA交渉というわけだ。安倍首相のごはん論法を容認することは、TPP11→日欧EPA→日米FTAという自由化ドミノを承認し、日本農業を崖から突き落とすことになる。日本の農業者にとっては正念場である。
(TAGに対する緊急特集の最近の記事)
・農業者を愚弄するんじゃねえ!【時田則雄】
・止めるしかないTPP超え必至の交渉【磯田宏・九州大学教授】
・日米の新たな通商交渉について【小林光浩・JA十和田おいらせ代表理事専務】
・これは「トランプ(T)、安倍(A)のごまかし(G)」だ【国民民主党・玉木雄一郎代表】
・国民とTPP11参加国への裏切り【田代洋一横浜国大・大妻女子大名誉教授】
・きちんと説明を【阿部勝昭・JAいわて花巻代表理事組合長】
この特集の記事は下のまとめページからご覧ください。
TAGに対する緊急企画「許すな!農業を売り渡す屈辱交渉」のまとめページ
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日