【読書の楽しみ】第23回2018年2月18日
◎旗手啓介
『告白』
(講談社、1944円)
四半世紀前、国連PKOへの協力で自衛隊と警察がカンボジアに派遣されます。南部の安全地帯にいた自衛隊とは対照的に、北西部のアンピルやフォンクーに駐在した9人の警察官にポル・ポト派と他派との内戦の危機が迫ってきました。
文民警察として武器の保持は許されず丸腰でしたが、運命の93年5月4日、車列を襲撃されて高田晴行警部補が死亡、4人が重軽傷を負います。
直前には国連ボランティアの中田厚仁さんが殺害され、いくら訴えても日本政府や国連代表からはゼロ回答ばかり。水や食糧の補給もままならぬ中、政治と国連の無責任さに翻弄された警官たちの無念さ、不信感が伝わってきます。しかも政府派遣の責任を逃れるため高田さんは正体不明の強盗団に殺されたことにされてしまう。
警察官たちは帰国後も、発言も文書も禁じられ(いつも同じこと)封印されてしまいました。それが本書によってようやく明るみに出た意義は極めて大きなものがあります。
襲撃に巻き込まれた外国の警察では本国でしっかりと報告書がまとめられているそうです。日本の無責任体制を知るためにも、多くの国民に読んでもらいたい、NHKによる第一級のドキュメンタリー報告です。
◎三浦英之
『五色の旗』
(集英社文庫、756円)
開高健ノンフィクション賞を受賞した傑作が文庫化されたので推薦したいと思います。
舞台は五族協和を旗印に満州に開校された建国大学。日本、朝鮮、中国、モンゴル、ロシアの各民族がともに学ぶ場として、徹底した教養主義のもと、学内では言論の自由、学習の自由が保障され、レーニンや毛沢東の書籍を読むこと、日本の植民地政策を批判することさえできたというのだから驚きです。
しかし日本の敗戦によって卒業生たちは以後、数奇な運命をたどります。著者は、日本各地はもとより中国、台湾、朝鮮、カザフスタンを訪ね歩き、彼らの変わらぬ友情と戦後の波乱万丈の生き様を明らかにします。
矛盾に満ちた五族協和でありながら、学生たちは卒業後も純粋にそれを追求しようとしました。読む者がそこに何を感じ取るか、深い余韻が残ります。
誰もが芯が強く仲間を慮るのは、自立主義と教養主義、それと学生同士の徹底的な議論の賜物ではないか。今の高等教育にも参考にしたいところです。
◎吉村英夫
『ハリウッド「赤狩り」との闘い』
(大月書店、1944円)
1947年ごろからアメリカで始まったマッカーシズムつまり赤狩りでハリウッドは大混乱に陥ります。多くの映画人が仕事を奪われ、仲間を売り、沈黙し、暗鬱な日々を送ったのでした。
「ローマの休日とチャップリン」という副題がついた本書は、追われるようにアメリカを去り傑作「独裁者」を作ったチャップリンと「女相続人」「探偵物語」「黄昏」の巨匠ワイラーを主人公として赤狩りを描いていきます。
次々に登場する映画人たちの言動や人物論は、映画好きにはたまらない面白さです。ゴシップ的なそれよりも脚本、演出、撮影、演技などを、赤狩りと映画人の苦悩とからませながら映画を深く理解する著者が描くのですから、面白くないはずがないのです。
「ローマの休日」ではヘップバーンと脚本家のトランボの話がとりわけ興味津々でした。再度熟読してDVDを見直したら、場面やせりふの持つ深い意味に気づくことでしょう。
(読書の楽しみの最近の紹介書籍)
・第22回 『悪だくみ』、『戦争調査会』ほか(18.01.21)
・第21回 『戦争と農業』、『侵略する豚』ほか(17.12.13)
・第20回 『怖い中国食品、不気味なアメリカ食品』ほか(17.11.16)
・第19回 『知ってはいけない隠された日本支配の構図』ほか(17.10.10)
・第18回 『日米開戦へのスパイ』、『ナチスの「手口」と緊急事態条項』ほか(17.09.24)
・第17回 『脱 大日本主義』、『日本中枢の狂謀』ほか(17.08.12)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(159)-食料・農業・農村基本計画(1)-2025年9月13日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(76)【防除学習帖】第315回2025年9月13日
-
農薬の正しい使い方(49)【今さら聞けない営農情報】第315回2025年9月13日
-
【人事異動】JA全中(10月1日付)2025年9月12日
-
【注意報】野菜類、花き類、豆類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年9月12日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政も思い切りやってほしかった 立憲民主党農林漁業再生本部顧問・篠原孝衆議院議員2025年9月12日
-
【石破首相退陣に思う】破られた新しい政治への期待 国民民主党 舟山康江参議院議員2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政でも「らしさ」出しきれず 衆議院農水委員会委員・やはた愛衆議院議員(れいわ新選組)2025年9月12日
-
ドローン映像解析とロボットトラクタで実証実験 労働時間削減と効率化を確認 JA帯広かわにし2025年9月12日
-
スマート農業の実践と課題を共有 音更町で研修会に150名参加2025年9月12日
-
【地域を診る】個性を生かした地域づくり 長野県栄村・高橋彦芳元村長の実践から学ぶ 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年9月12日
-
(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
-
秋の味覚「やまが和栗」出荷開始 JA鹿本2025年9月12日
-
「令和7年台風第15号」農業経営収入保険の支払い期限を延長 NOSAI全国連2025年9月12日
-
成長軌道の豆乳市場「豆乳の日」前に説明会を実施 日本豆乳協会2025年9月12日
-
スマート農園を社会実装「品川ソーシャルイノベーションアクセラレーター」に採択 OYASAI2025年9月12日
-
ご当地チューハイ「寶CRAFT」<大阪泉北レモン>新発売 宝酒造2025年9月12日
-
「卵フェスin池袋2025」食べ放題チケット最終販売開始 日本たまごかけごはん研究所2025年9月12日
-
「日本酒イベントカレンダー 2025年9月版」発表 日本酒造組合中央会2025年9月12日