食料システム法案が衆院委通過 価格転嫁促進に期待 実効性と消費者理解が課題2025年5月13日
衆議院農林水産委員会は5月13日、食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律及び卸売市場法の一部を改正する法律案(食料システム法案)を賛成多数で可決した。合意形成促進、商慣習見直し、生活困窮者・子ども食堂支援などを求める附帯決議も可決した。今国会で成立する見込みで、長く低価格に苦しんできた農業者、JAグループは価格転嫁促進に期待を込めるが、実効性や消費者理解醸成など課題も多い。
合理的な費用を食品価格に順次転嫁していくことで、農業者をはじめ食料システムの各段階の担い手の事業が持続可能になり食料システムが維持されることをめざす食料システム法案が衆議院農水委員会で可決された。
資材はじめ再生産コストが高騰するなか、コストを農産物価格に転嫁しきれず苦しんできた多くの農業者は今後価格転嫁が進むことを期待するが、課題も山積している。法案の意義と今後の課題を、5月8日に農水委で行われた参考人質疑から探る。
現場の期待「たいへん大きい」
JA全中の藤間則和常務は、「農畜産物の価格においては川下ほど価格交渉力が強い中で、これまで生産コストが増加してもそれを農畜産物の価格に転嫁するような仕組みがなく、農業者がコストの増大分を負担していた。このような状況が続けば農畜産物の再生産が確保できず、食料の持続的な供給に影響がある」と参考人質疑で課題状況を説明。「改正食料・農業・農村基本法を踏まえ、合理的なコストを考慮する仕組みを新たに法制化することがめざされた。......生産現場の期待はたいへん大きい。実効性の確保と、不適正な商習慣の把握や是正に向け国が関与する仕組みを早期に構築いただきたい」と語った。
商習慣、見直し必須
食品関連産業で働く人たちの労働組合の集まり、フード連合の伊藤敏行会長(組合員約11万人)が指摘したのは、根強く残る不合理な商慣習だ。
伊藤会長は、「小売での熾烈な価格競争が、そこに製品を納入する食品物流業や食品製造業にもしわ寄せされ、価値に見合わない価格やサービスが常態化している」と指摘。UAゼンセンとともに続けてきた「取引慣行に関する実態調査」(直近の調査は食品企業約100社に属する4000人超が回答)にもとづいて、合理的な根拠のない取引の都合による価格を一方的に決められるケースや、新店オープン時などの客寄せのため行き過ぎた納品価格の引き下げ、協賛金要求が常態化している。取引先にて店舗の改装の手伝いなどをさせられるといった実態を具体的に紹介。「こうした不公正な取引や商慣習が残ったままで、それに要するコストが考慮されて価格形成が進んでしまうと消費者に不適切な負担を強いることにもなりかねない。(政府は)現場の取引実態をしっかり確認し、見直すべき商習慣を適切に設定いただきたい」と述べた。伊藤会長の公述から、長く続く商慣習を見直す必要性が浮かび上がった。
購買力向上に「賃上げ」重要
明治ホールディングスの川村和夫社長(一般財団法人食品産業センター副会長)は、「今後の世界の食料需給や為替の動向を考えた場合、国産原材料へのさらなる回帰も考えていく必要があるが、国産原材料は消費者ニーズが高い一方、品質や数量、価格の面で課題がある。農林水産業と食品産業が協力してこうした課題をのりこえ、国産原材料の利用拡大を図っていくことが必要ではないか」とした。
川村社長は食料システム法案のうち食品産業の持続的発展に関する措置にふれ「中小企業が大半をしめる食品産業としてもたいへん心強い」とした。「合理的な費用を考慮した価格形成」については、「何よりも消費者のみなさまの理解を得ることが重要」とし、「消費者の購買力を確保するためには継続的な賃上げが重要だ」と説いた。
需給バランスさせ価格変動を小さく
インショップ形式の直売所と産直卸事業に取り組む農業総合研究所の及川智正会長は、自社の事業展開を通じ合理的な価格形成への課題を浮かび上がらせた。
及川会長は「農業にはいろいろな問題があるが根本には『もうからない』という問題がある」とし、もうかる仕組みをどう作るかをめぐる創意工夫を紹介。「需給のアンバランスをなるべく小さくしていく。ボラティリティー(価格の変動性)をなるべく小さくしていくことが生産者の手取りを増やしていくことに直結するのではないか」とし、みんなで価格を決め利益を分け合うレベニューシェアやAIを使った需供調整プラットフォームの試みを紹介。「豊作貧乏をなくす仕組みができるまで頑張っていきたい」と語った。
法案は大切な「第一歩」
法案の目的が達成されると思うかというやはた愛議員(れいわ新選組)の質問に答えて、及川会長は「目的が達成されるかどうかはわからないが第一歩、本法案のスタートが大切ではないか。今までが野菜が安かった。高くなるのではなく、普通の値段になる。農家も生活者なので、安いと生活できなくなる。バランスを取っていくのがとても大切であり、本法案の意味ではないか」。値上げは消費者に厳しい、国が補填すべきではという趣旨の同議員の質問に、フード連合の伊藤会長は「(農家への)所得補償については答える立場にない。ただ、農家さんもそうだし食品産業もそうだが、価格転嫁できなければこの業界から人がいなくなってしまう」と課題の切実さを訴えた。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】あぶらな科野菜にコナガが多飛来 防除開始時期に注意 北海道2025年5月14日
-
新会長に日本農薬の岩田浩幸社長 クロップライフジャパン2025年5月14日
-
2025年度通常総会で役員体制を決定 クロップライフジャパン2025年5月14日
-
食料システム法案・参考人の公述から① 生産現場の期待は大きい JA全中・藤間常務2025年5月14日
-
食料システム法案・参考人の公述から② 不公正な商慣習、見直す時 フード連合・伊藤会長2025年5月14日
-
食料システム法案・参考人の公述から③ 農林水産業と食品産業が協力して 明治ホールディングス・川村社長2025年5月14日
-
食料システム法案・参考人の公述から④ 豊作貧乏なくす流通の仕組みは 農業総合研究所・及川会長2025年5月14日
-
【JA人事】JAなめがたしおさい(茨城)新組合長に金田富夫氏(4月26日)2025年5月14日
-
共済・保険契約の安心感は高く、契約は担当者の訪問で 2024年度共済事業にかかる認知度等調査 日本共済協会2025年5月14日
-
歴史の改ざんを許さない【小松泰信・地方の眼力】2025年5月14日
-
【JA人事】JAさがえ西村山(山形県)安孫子常哉組合長を再任(5月9日)2025年5月14日
-
「GREEN×EXPO 2027」にカタール国が初の公式参加契約 2027年国際園芸博覧会協会と調印式2025年5月14日
-
食品関連企業の海外展開セミナー開催 現地のビジネス投資環境を紹介 農水省2025年5月14日
-
父の日に届ける「比内地鶏焼鳥串詰合せ」「きりたんぽ鍋セット」予約受付 JAタウン「おらほの逸品館」 JA全農あきた2025年5月14日
-
全農杯全日本卓球選手権大会(ホープス・カブ・バンビの部)岡山県予選会に賞品 JA全農おかやま2025年5月14日
-
令和7年度「ミスあきたこまち」募集開始、応募は6月30日まで JA全農あきた2025年5月14日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」駿府楽市でお買い物&静岡そだちで焼肉を堪能 JAタウン2025年5月14日
-
日本茶海外輸出に資する緑茶用新品種「せいめい」SOP公開 農研機構2025年5月14日
-
小田原市、山崎製パン、JAかながわ西湘が連携「梅ジャム&ミルクホイップツイストドーナツ」新発売2025年5月14日
-
さいたま市「東日本まるまるマルシェVol.2」青森・福島・会津若松・小山・新潟の自慢の逸品フェア開催2025年5月14日