農政:【土壇場の日本農業 新基本法に望むこと】
食料安保こそ「国防」 今必要なのは農業振興への5兆円 鈴木宣弘・東京大学大学院教授(1)2022年12月21日
12月16日、岸田政権は戦後日本の安保政策を大転換する国家安全保障戦略など安保関連3文書を閣議決定した。そこでは議論も尽くされないまま、2023年度から5年間の防衛費を現行の1・5倍の43兆円とすることが盛り込まれた。しかし、それでいいのか。今、求められているのは食料安全保障政策の大転換とそのための国家予算の確保ではないのか。「基本法の見直し」では不十分で、食料安全保障推進法を制定すべきだと鈴木宣弘東大教授は主張する。
基本法改正ならやるべきことは
東京大学大学院教授
鈴木宣弘氏
日本の食料自給率は、種や肥料の自給率の低さも考慮すると、38%どころか10%あるかないかで、海外からの物流が停止したら、世界で最も餓死者が集中する国が日本だと米国の大学も試算している。
今こそ、国内農業生産を増強しないといけないのに、逆に、国内農業は生産コスト倍増でも農産物の価格が上がらず、コメも生乳も減産が要請され、この半年で、廃業が激増しかねない危機に瀕している。
このまま放置したら、農業が壊滅し、「台湾有事」などもささやかれる中、本当に物流が止まれば、国民の食べるものは本当になくなり、飢餓に直面する。農業の壊滅は、すなわち、関連産業も農協も存続できなくなることを意味する。我々は「運命共同体」である。今は、その崩壊の瀬戸際であることを正しく認識しなくてはならない。
お金を出せば食料と生産資材が海外から買える時代は終焉した。不測の事態に国民の命を守るのが「国防」というなら、国内農業振興こそが安全保障である。防衛費を5年で43兆円、1年間で今の2倍になるよう5兆円増やす議論の前に、財務省の縛りを打破して、食料にこそ5兆円の予算を付けられるようにするのが基本法改正でやるべきことだろう。
危機認識力が欠如している政府の姿勢
政府の姿勢は、1月の岸田文雄首相の施政方針演説のときから基本的に何も変わっていない。施政方針演説では、「経済安全保障」が語られたが、「食料安全保障」「食料自給率」についての言及はなく、農業政策の目玉は「輸出5兆円」「デジタル農業」など、ほとんど夢のような話だった。危機認識力が欠如していると言わざるを得ない。
輸出振興もデジタル化も否定するわけではないが、食料危機が迫っているときに、まずやるべきは輸出振興でなく、国内生産確保に全力を挙げることだ。我々に突きつけられた現実は、食料、種、肥料、飼料などを過度に海外依存していては国民の命は守れないということだ。
それなのに、「いくら頑張って自給しても、米国やオーストラリアよりコストがかかる」という理由で、自由化を進めて貿易(調達先)を増やすのが安全保障であるかのような議論が必ず出てくる。まさにそれが間違っていたのだ。輸入が止まったらどうするのか? 国内の生産がなければ命が守れない。
命のコスト無視した「自由貿易論」
国内の食料生産を維持することは、短期的には輸入農産物より高コストであっても、飢餓という計り知れないコストを考慮すれば、総合的コストは低い。地域で頑張っている農家をみんなで支えることこそが、自分たちの命を守ることであり、その意味では一番安い。これこそが安全保障の考え方だ。命のコストを無視した「自由貿易論」は使い物にならない。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日